2021年3月11日木曜日

十年目

十年という歳月を振り返ってみる。うん、長い。いろんなことがあった。いい日もあればまあまあ悪い日もあった。しんどいこともあったけど、そんなに長続きはしなかったな。

言ってみれば、そこそこ平凡な日々。

大槌をはじめ震災と津波を受けた街の人たちにとっては、もちろんそうではなかった。一人ひとりに違う道があって、大変な思いをしながら辿ってきたのだろうなあと思う。いや、辿ったのではなく、一人ひとりが道を作ってきたのだと思う。目の前に広がる荒野に足を踏み出して、一歩一歩踏み固め、道を作ってきたのだと思う。

震災後、岩手県大槌町にほんのちょっとの時間だけど、ぼくはいた。あの時出会った人たちはそれぞれの道を歩み進んでいることだろう。特に中学生だった女の子3人組。今ではもう二十四,五歳だ。その内のひとりエリカちゃん(今はもう、エリカさん、ですね)は、奨学金を得て単身東京に勉強に出て、そのまま仕事に就いた。やや引っ込み思案な彼女にとって、寂しさや辛さは人一倍だったと思う。それでもほんとによく乗り切った。いまの仕事も大変そうだけど、なんともう4年目だという。すごいよ。誰にでも真似できることではない。

あの時に被災した一人ひとりが新しい道を作り進んで行った。崖っぷちの道があったかもしれない。荒涼とした砂漠に細く伸びる道かもしれない。ぬかるみの道、ゴツゴツした岩場を縫う道、濡れた道、藪におおわれた道。開けた稜線の道、谷沢へと落ちる急な道、寂寞とした夜道。その道はみな、元は荒野だった。思い切った一歩を踏み出し、地面を踏み固め、前に進んだからこそ生まれた道だ。不安と悲しみに満ちた世界から足を踏み出したからこそ、その道は生まれた。


後ろを振り返るとそこに道ができていた。でも決して真っ直ぐじゃない。右に曲がり、左に折れ、時には行きつ戻りつ、留まっていたところには小さな広場もできている。十年の歳月の作った道は驚くほど複雑で長い。


振り向いたとき、辿ってきた道を思い返すこともあるだろう。でも間違いなく、一人ひとりがその道の先に立っているのだ。


10年経った今、かの人々は目的地を見いだし力強い一歩を踏んでいるだろう。

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